こたつでみかん
花の手の中には、みかんのような大きさの柑橘系の果物があった。
名前は聞いたが忘れてしまった。「みかん」でないことは確かだ。しかし、もらったときにひとつ食べて、味もみかんとそっくりだったので、もうみかんと呼ぶことにしようと思っている。
自室に戻った花は、ひとつ食べようとして、手を止めた。
みかんといえばこたつと思うのは、単純すぎるだろうか。この世界にこたつはないが、思い出すとあの温もりが恋しくなった。
花は、きょろきょろと部屋の中を見回した。
こたつの雰囲気を味わえるかもしれない。
寝台から掛け布を持ってきて、脚の低い机にかける。天板はなくてもいいだろう。中を暖めたいところだが、部屋の中で代用できそうなものは火鉢くらいだった。それを中に入れたら危険すぎるので我慢する。
花は即席こたつの中に入ってみた。
すーすーしているが、こたつ気分を味わえなくもない。
「花? ボクだけど、今いい?」
そのとき、戸の向こうから孔明の声がかかった。
「はい。どうぞ」
花はこたつに入ったまま返事をする。
戸を開けて入ってこようとした孔明は、室内の様子に眉を顰めた。
「何してるの?」
「あ、こたつでみかんを……」
「コタツでミカン?」
首を傾げる孔明に、花は素早く説明した。
「なるほど。コタツでミカンなわけだ」
「はい」
孔明は、擬似こたつと「みかん」を指差して納得したように頷いた。
「じゃあ、ボクも」
「えっ?」
孔明はするりと花の隣に座って、こたつに足を入れる。
「これはなかなかいいね」
「師匠、狭いです」
満足そうな孔明に、花は唇を尖らせた。
こたつマナーがなっていない上、あまり大きくない机のため、二人で並んで座るのはとても窮屈だった。
「ひとつの辺に一人が入るんです。あっちに行ってください」
花は自分の向かい側を指し示した。
「いいじゃない。くっついてた方があったかい」
孔明は意に介さず、花に擦り寄って、みかんに手を伸ばす。
これ以上は言っても仕方ないらしい。
それに確かに孔明の言うとおり、暖める機能のない擬似こたつでは、くっついていたほうが暖かい。
触れる肩に少しどきどきするのは、気のせいだろう。
「師匠、あの……」
少し離れてくださいと言おうとした花の口に、孔明がみかんを放り込む。
「おいしいね」
孔明も一房口にした。
まあ、いいか。
花はそう思って、素直にみかんを咀嚼する。
「……はあ」
すると、すぐ隣でため息をつかれた。思わせぶりなため息だ。
「どうしました?」
「なんでもなーい」
しかし、尋ねても孔明は答えず、ごろりと寝転がって目を閉じてしまった。
ここで昼寝をしていくらしい。
花は気にせず、残りのみかんを食べ始めた。