昼寝の季節
暑い夏の終わりは、雨と雷。
ひとしきり嵐のように荒れたあと、爽やかな秋風が吹いた。
「涼しくなりましたね」
「うん。おかげで昼寝も快適」
花は壁に背を預けて、孔明は花の膝に頭を預けて、休憩時間だ。
夏の間はさすがに暑くて、汗ばんだ肌に触れてほしくない、と花が断っていたので、久しぶりな気がした。
「ねえ、師匠。これって、ほんとに寝やすいんですか?」
花は前から思っていた疑問をぶつけてみる。常々、昼寝用の枕を用意しておいた方がいいのではと思っていた。そのほうがしっかりと休むことができるのではないかと。
しかし、孔明は軽く頷いた。
「うん。だってほら、肌にすぐ触れるよ」
ちゅっと花の膝に孔明の唇が触れる。
「ひゃっ!」
びっくりした花は、思わず中腰になって身を引いた。
ごとん、と孔明の頭が床に転がる。
「痛いよ、花。暴力反対」
「こっちはセクハラ反対です」
頭を押さえて泣きべそをかく孔明に悪いとは思いながらも、花はそう非難し返した。
「せくはら?」
孔明は首を傾げるが、花はその単語を説明するつもりはなかった。この世界に広めても仕方ない。
「……大人しく寝てください」
花は、座りなおして、ぽんぽんと膝を叩く。
だが、孔明は意表を突かれたような顔で、一瞬、固まった。
「? どうかしました?」
「あ、う、ううん。なんでもない」
孔明は慌てて首を振って、再び横になる。
さらりと孔明の黒髪が、花の足を撫でた。その感触が少し気持ちが良くてお気に入りなのは孔明に内緒だった。
花は孔明の髪の中に指を埋める。
「……順応性が高いのも心配かもしれない」
頭を撫でられながら、孔明はぼそりと呟いた。膝枕なんてと可愛らしく赤面していたのはついこの間のことだったのに。もう羞恥の外にあるのだとしたら、警戒もしなくなってしまうのだろうか。孔明は少しだけ不安になった。
「え?」
「なんでもない。さー寝よう。一眠りしてまた仕事だ」
呟きを聞き取れなかった花に首を振って、孔明は目を閉じる。
からっとした秋の空気はほどよく睡気を誘った。