好きなところ
「ボクの好きなところを3つ言って」
出し抜けに、孔明が突拍子もないことを言ってきた。
花は固まってしまう。
好きなところを3つ。
孔明の好きなところ。
どこだろう。
容姿だろうか。
確かに、悪くはない。というより、よい方だろう。正装をすれば、城の女性たちが騒ぐほどには。ふだんはあまり身なりに構わないうえに、掴みどころのなさが前面に出ているため、女性陣の目に留まらないのだ。
花はもちろん好きだ。だが、孔明の容姿が好みだから好き、というのは違う。
それでは、頭の良さか。
それは孔明の最大の特徴だろう。知らないこと、分からないこと、見通せないことはないのではないかと思うほど、深く広い思考の海が孔明の中に存在する。それは国中の者が頼りにするところでもあった。
花もとても尊敬している。しかし、それもまた、孔明を好きな理由とは違うような気がした。
花は、答えを求めて孔明を見る。
孔明は黙って、花の返事を待っていた。
そんな孔明を上から下まであらためて見直して、花は唸る。
どう考えても、答えは、ひとつだった。
「……師匠だから好きなんです」
花は考えた末に、そう言った。
それ以外の答えは見つからない。
「はぁぁ」
すると、孔明は盛大にため息をついて、項垂れた。
「その反応、失礼じゃないですか」
花は少しく機嫌を損なって、口を尖らせる。
「あのね、花」
だが、起き上がった孔明は、至極真面目な顔をしていた。
「答えられなくて困る君にお仕置きをしようと思ってたのに、駄目じゃないか」
「な、なんですか、それは」
危ういところで危機を回避していたのかと、花はドキマギする。孔明のお仕置きが、可愛いものであるはずがない。
「即答されたらどうしようかとも思ってたんだけど、まさかそんな答えが返ってくるなんて思わなかったよ」
孔明はまだぶつぶつと呟いている。
いったい何が気に入らないのだろう。
「師匠、どういうことですか」
花が尋ねると、孔明は一度頭を振って、そして花を見た。
「ボクも花が花だから好きだよ」
孔明の言葉に、花の心は温かくなる。
同じ答えだったから、きっと悔しかったのだ。飄々としているように見せかけて、負けず嫌いな性格だから。
「はい」
花は笑う。
そんな花に、孔明も仕方なさそうにして笑顔を見せた。
「大好きだよ、花」
「私も、好きです」
孔明は花を抱き寄せて、ぎゅっと力を込める。
「君じゃないとダメなんだ」
「はい」
縋るような声には胸が詰まった。花はそっと頬を孔明の肩に預けて目を閉じる。
「私もです」