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お家に帰ろう

「花、君も今帰り?」
 廊下を歩いていると、後ろから声をかけられた。
 その声にびっくりして、急いで振り返る。
 廊下の先に、帰り支度が済んだ様子の孔明が立っていた。
 花は期待に胸を膨らませる。
「孔明さんも、終わったんですか?」
「うん。今日は早く終わったんだ。一緒に帰ろう?」
「はい」
 花は嬉しくなって、口元を緩めて頷いた。
 すると、近づいて来た孔明が何も言わずに抱きしめてくる。
「こ、孔明さん!?」
 花は慌てたが、抵抗はしなかった。こんな機会は滅多にない。
「今、すごく抱きしめたくなった。駄目?」
 もう抱きしめているのに、孔明はそんなことを言った。
 花が駄目と言わないと知っているのだろう。
 もちろん、言わないのだが、なんだか悔しい。でも、駄目とは言わない。
「……駄目じゃないです」
 花はそう言って、少しだけ孔明に体を寄せた。
「うん。満足」
 しかし、孔明はすぐに花を解放する。その顔は言葉通り満足げだ。
 抱きしめたいから抱きしめて、満足したから離すだなんて、全く孔明は勝手だ。
 花は、離れてしまって、少し寂しいというのに。
「…………」
 花は、孔明と同じくらい唐突に、孔明の手を握った。
「は、花?」
 びっくりする孔明に、花は言う。
「あの、手を繋いで帰りたくなりました……」
「!」
「……駄目ですか?」
 孔明の返事は知っているが、花は聞いた。
 孔明は楽しそうに笑って、首を振る。
「駄目でしゃないよ」
 孔明は、花の手をしっかりと握り直して、引き寄せた。
「帰ろう」
「はい!」

 帰ろう、帰ろう。
 僕らの家へ。

 

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