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サイズ

 

 花は、とりあえず、目の前にある孔明の背中に抱きついてみた。
 腕を回して、孔明の腹の前で組む。
 やっぱりだ。
 花は思ったことを確認できて、一人で頷いた。
「は、花? どうしたの?」
 突然の花の行為に、孔明の声が珍しく上擦っている。
 肩越しに目が合った。
 花は、孔明から離れて元の位置ーー孔明の一歩後ろに戻る。
「確認です」
「はい?」
 花が言うと、孔明は不可解そうに眉を寄せた。
「何の?」
「師匠のサイズです」
「さいず」
 孔明は聞いたことのない言葉を復唱する。
 伝わる単語と伝わらない単語の境が曖昧なため、花は孔明に伝わっていないことに気づかずに、話を続けた。
「師匠って大きく見えないんですけど、やっぱり私より大きいんだなって。亮くんのサイズも知っているから余計なんでしょうね」
 普段は気にならないのに、前を歩く孔明がやけに大きく見えて、花は確かめたくなったのだ。
 今日は珍しく正装をしているからかもしれない。いつもより立派に見えて、まるで別人のようなのだ。
「…………」
 花の話し振りから、孔明は、サイズというのが体格と大体同じ意味だと推察した。だが、今の問題はそこではない。
 それを今のタイミングで確かめる必然性だとか、その確かめ方はどうだとか、言いたいことがたくさんできた。
 もしかしたら、まだ異性という認識が薄いのだろうかと、不安すら湧いてくる。
 けれど、そうではなくて、花のいつもの勤勉さで、考えていることで頭がいっぱいになった末の行動なのだろう。
 孔明はひとつ試してみた。
「それなら、こっちから確かめてみたら?」
 そう言って、花に向き直って、腕を開く。
 花はそんな孔明に一瞬きょとんとしてから、その意味を理解して、すぐに顔を赤くした。
「そ、そんなっ、恥ずかしいことできません!」
 花はぶんぶんと首を横に振る。
 突然後ろから抱きつくことは恥ずかしくはないのかと突っ込みたくなるくらいの反応だが、孔明はあえて指摘せずに流しておいた。
 それよりも、したいことがある。
「そう? じゃあ、ボクが確かめようかな」
「えっ?」
「花のサイズ」
 孔明はそう言って、顔を真っ赤にしている花をぎゅっと抱きしめた。
 花とは逆に、思ったよりも花の体は小さくて、胸の中に抱きこめてしまう。
「ほら、こっちの方が分かりやすいよ」
 孔明は花を抱き寄せて囁いた。

「私が恥ずかしいわ」
「全くです」
 二人の後ろを歩いていた芙蓉と晏而が、顔を引き攣らせて目を背ける。
「亮、いいなあ」
 季翔はひとり、羨ましそうに二人を見つめていた。

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