ドーナツ作ろう
「これで、どうだ?」
雲長が台所から持ってきたのは、まさに花が思い描いたとおりのドーナツだった。
「こ、これです! これがドーナツです!!」
花は感動して叫ぶ。ドーナツが食べたくなったが、何と何をどれくらい混ぜてどう作るのかあやふやだったところ、どんな感じだったか伝えただけで、雲長は見事に作ってのけたのだ。
「うまそー!」
さっそく翼徳が手を伸ばした。
「さすがだな、雲長」
玄徳もひとつとる。
「悔しいわ。悔しいわ」
芙蓉は悔しがりながらも、むしゃむしゃと食べた。
「うまーい」
「翼徳。花のだ。お前ばかり食べるな」
翼徳がすでに三つ目に入るのを見て、雲長が釘をさす。
「だって、これ、すげーうまいよ?」
「ああ。この蜜のかかり具合が絶妙だな」
「悔しいわ。悔しいわ」
「雲長さん、ありがとうございます!」
本物のドーナツに再会できて、花は目をキラキラさせた。
「ああ。いつでも言え」
そんな花に、雲長は、珍しく、優しく顔を和らげる。
二人の間に穏やかな良い空気が流れたときだった。
ぬっと新たな手がドーナツに伸びる。
「師匠!?」
いつもはお茶に加わらない孔明が、いつのまにか花の背後に立っていた。
ドーナツを一つ頬張って、なにやら唸る。
「小麦7、砂糖1、卵2の割合で、混ぜて揚げるんだね。それから蜜につけて出来上がり」
そして、すらすらとドーナツについて分析してみせた。
「師匠、すごい。食べただけで分かるんですか?」
花の賞賛の眼差しが、今度は孔明に向けられる。
「これくらい簡単だよ」
「さすが師匠。何でも分かっちゃうんですね」
「いやー、それほどでもないよ」
照れたように頭を掻きながら、孔明は翼徳を押しのけて、花の隣に座る。
「師匠、お茶飲みますか?」
「ありがとう」
花はいそいそと孔明のためにお茶の用意を始めた。
「…………」
雲長と玄徳と芙蓉は顔を見合わせる。
そして、同時に大きなため息をついた。