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恋戦記ワンドロ「記念日」

ツイッターの恋戦記ワンドロ企画様(@rensenkino1draw
2/6のお題【記念日 or お祝い】

だいたい1時間ライティング。越えているのは確かですが時間見てませんでした。電車の中で書いたので、フリック分アディショナルタイムください…!
孔花で記念日


「記念日」


突然目の前に現れたそのひとは、ボクの世界を変えた。







 

 

「――んだから、責任とるべきだよね、君」
「なんの話ですか」

机に肘をついて手の甲に顎をのせて、怠惰ともみえる姿勢で、孔明は花を見ている。
ここは、成都は玄徳の城の一室、孔明の執務室だ。どうにかとることのできた世界の均衡を安定させるために働く最前線の部屋である。
花は書庫から孔明に頼まれた書を運んできたところだった。
書を渡して、書庫に戻ろうと踵を返した背中に、さきほどの言葉がかけられた。花は警戒して孔明を見る。もう短くもなくなった付き合いの中で積んだ経験値から、今、気をつけなければならない会話が始まったことを悟ったのだ。


「えー? まっさらで純真なボクを、君色に染めたんだから、責任とるべきだよねって」
「変な言い方しないでください」

花は顔を顰めてから、諦めたようにため息をついた。

「……何をすればいいですか」

察しのいい弟子だ。腹の探り合いの放棄が早すぎるが、それは彼女の長所にもなるだろうーーと、孔明は師匠めかして思いながら、自分の望みを遂げるべく告げる。

「そこに座ってくれるだけでいい」
「はあ」

花は胡乱げに、しかし素直に、床に座った。
これも素直すぎるところはあるが、ひとまず今は不問だ。
孔明は席を立って花のもとに行く。そして、もちろん、花の膝の上に転がった。

「うーん、やっぱりここがいちばん」

孔明は満足して体を伸ばす。
花は驚きもせずに笑った。座らされた辺りから、半ば予想していたのかもしれない。
膝枕は、孔明にとっても花にとってももうなんでもないことになっている。
触れることにためらいも罪悪感もなく、後ろめたかった膝枕にただ喜びだけを覚えるようになるなんて、まるで夢のようだ。
――花がいる。

「ねえ、花」

孔明は花を呼んだ。
向けられる瞳に微笑みを返し、その頬に手を伸ばす。

「今日が何の日か――」
「孔明! 大変だ!!」

知っているかという問いかけは、突然、許しも得ずに、荒々しい声を上げて入ってきた晏而によってかき消された。

「うわっ、俺が大変だ」
「イテ。なんだよ、晏而。って、な、なにしちゃってるんだよ!!  羨ましいなちくしょー!」

室内の様子を見て、晏而は青ざめる。そのあとから続いていた季翔は、突然急ブレーキをかけて止まった晏而の後頭部に鼻をぶつけた後、大いに騒ぎ立てた。

「うるさい」

せっかく花を呼ぶ前に人払いをしていたのに台無しだ。この時間は訓練だからと晏而たちへの対策を怠った自分の落ち度ではあるが、本当に間の悪いふたり組だ。この借りはどう返してくれよう。

「君、相手してあげて」
「えっ、し、師匠! 起きてください」

とりあえず今はふたりの話など聞きたくなく、孔明はごろりと転がって晏而たちに背を向けた。
晏而たちがいるのに膝枕をやめない孔明に、花が焦って体を揺さぶってくる。
孔明は目を閉じてそれを無視した。


(あーあ……)

花には知られないようにがっかりとため息をつく。
今日は何の日か――。
それは、あの泰山の山の中で、花と「出会った」日だ。
孔明の運命の日。
孔明の世界が変わった日。
その日を今年も共に過ごすことができた。
花は気づいていないだろうから、それを教えてあげようと思ったのに――と思って、はたと孔明は気づいた。
孔明と花が出会った日というのは、それは晏而と季翔が花と出会った日でもあるのだ。つまり、晏而たちにとっても今日は記念の日だ。

――全く気づきたくなかった。

心から残念な気持ちになった孔明は、このまま寝てしまおうときつく目をつぶった。




「その日」は運命だから、なにがあっても、どんな道の途中でも、ボクらはきっと出会う。



おわり

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