Hello, New year!
「よいしょ、っと」
孔明が、ひらりと花の隣に立った。さすがに手馴れた様子だ。
「師匠、さすがですね」
花は思わず口に出してしまった。
案の定、孔明が複雑そうな顔をする。
「それ、誉めてないでしょ」
「すみません」
花は否定もせずに謝った。
孔明は、何か言いたげに口を開いたが、いったん閉じて、また開いた。
「で、こんなところにみんなを集めて、何をしようって言うんだい?」
孔明は、花の後ろにいる人たちに視線を流す。
花の後ろには、玄徳をはじめ、顔なじみが揃っていた。そして、孔明が「こんなところ」と言う、みんなが座っているところは、屋根の上である。
君主以下、国の主要なものたちが、雁首を並べて、屋根の上にいるのは異常な光景だ。けれど、屋根の上には、雲長もいるため、国内で、彼らを窘められる者はいなかった。
ここに集まるよう呼びかけたのは花である。そのため、玄徳たちのほかに、晏而と季翔の姿もあった。
「はい。あの、あ……」
説明しようとした花は、前方に目的のものを見つけて、言葉を止めてしまう。
それを見て、孔明も振り返った。
「おや」
東の空が赤く滲み、夜と混ざり合っている。夜明けだ。大きな太陽がわずかにその頭を出していた。
「これは……」
玄徳も見入る。
「きれい」
芙蓉が頬を緩めて呟いた。
「なかなか」
雲長もまんざらでない顔で頷く。
「すっげー」
翼徳は目を輝かせて見つめた。
「心が洗われますね」
静かに控えていた子龍も、いつのまにか立ち上がっている。
今や座っているものは誰もいなかった。
「きれいだなあ」
「ああ」
晏而と季翔も徐々に姿を現す太陽から目を離さない。
「私の国では、新年の日の出を見る習慣があるんです。家族とか、仲のいい友だちとかと見にいくものなので、みなさんを誘ってしまいました」
こちらの世界では、初日の出という習慣はないと聞いたので、断られるのを承知で声をかけたのだが、全員来てくれた。
「こんな時間に、ありがとうございます」
「いいや、こちらこそ誘ってくれてありがとう。おかげでいいものを見ることができた」
玄徳が笑って、花の頭を撫でる。
玄徳にお礼を言われて、花も嬉しかった。自然と笑みがこぼれてしまう。
すると、そんな花の腕を、孔明がぐいといささか乱暴に引いた。
「来年は二人っきりで見よう?」
「し、師匠!」
孔明に抱きこまれて、花は焦る。
「聞こえてますけど、孔明殿」
芙蓉が頬をひきつらせて孔明をにらみつけた。
「聞こえるように言ってますから」
それに対して、孔明は不遜に笑ってみせる。
「亮、お前なあ……」
晏而が年長者として諌めようと一歩前に出たときだった。
「あ! みんな、見て見て!」
翼徳が興奮したように声を上げる。
見れば、太陽が完全にその姿を現そうとしていた。
世界が明るくなっていく。
新しい年の始まりだ。
朝日が昇りきると、誰ともなく顔を見合わせた。
「今年もよろしくお願いします」
きっと今年はいい年になる。
ハロー、新年。