あとがきのあとがき

『白銀の森のくま』をお手に取っていただきありがとうございました! この本は、ノルウェーの民話「太陽の東 月の西」のパロディーで、そちらをベースに6周年エッセンスを加えて、いろいろ都合よく変えて作りました。なのですが、まるで「シンデレラ」レベルに、だれもが元ネタ知っているかのように書いていて、入稿後、我に返ったときに、「太陽の東 月の西」は「シンデレラ」なみだろうか…と思いつきまして…遅い…、元ネタの内容とそこから考えた設定を説明しようかなと思った次第です。

本を読んで、わけわからなかったな、と思っていただいたままでいいですし、わけわからなかったな?と「太陽の東 月の西」を読んでいただくのは光栄ですし、わかったよ!という方は感謝感謝ですし、ここぜんぶとても蛇足なのですが、よろしければどうぞ~!

蛇足ついでに、私が想定していたエピローグを書いてみました。そちらだけ読みたい方はこちらからどうぞ! ⇒「白銀の森のくま」エピローグ

「太陽の東 月の西」あらすじ

元ネタの「太陽の東 月の西」のあらすじ(結末まで)です。読みたい方だけ読んでいただければと思います。元ネタあらすじ知りたくない方は飛ばしてください。

・白クマが村の貧しい家に一番末のむすめを嫁にほしいとやってきて、むすめは白クマに嫁ぐ

・お城で楽しく過ごしていたが、むすめは家が恋しくなり、ふたりきりで母親と話さないことを条件に里帰りをする

・里帰りしたむすめは白クマとの約束を守ろうとしていたが、母親とふたりきりで話をしてしまう。その際に、夜、いつも暗くなってから男の人が寝台にくるのだが、朝は白クマがいると話すと、母親は、それは怪物かもしれないから確かめた方がいいとろうそくをむすめに渡す

・お城に戻ったむすめは、母親の言う通りに、夜、男が寝台に入ってきて眠ったところで、ろうそくに火をつける

・隣で寝ていたのは見目麗しい王子で、むすめは王子にひとめで恋をしたが、王子はまま母の魔女に昼間は白クマになる魔法をかけられていて、一年たてば自由の身になったが、姿を見られたため、太陽の東 月の西のまま母の魔女の城にいるおひめさまと結婚しなければならなくなった、と告げていなくなる

・むすめは王子を追いかけて、どうにか太陽の東 月の西にたどりつき、途中でもらった金のりんごなどを使っておひめさまや魔女とあれこれやりとりした末に、王子を取り戻す

(↑クリックで開閉します)

『白銀の森のくま』の設定

「太陽の東 月の西」をもとに作った設定

・豊かな白銀の森に暮らす白銀の森の民(長寿)と、森を狙っている太陽の裏の国の魔女(長寿)が、ふもとのあかりの村(人間の村)を挟んでにらみあっている。現在の村人たちは、魔女たちのことをおとぎばなしの中のことだと思っている。はるか昔に実際に被害があったときに、光が苦手な魔女をよけるため、村中にあかりをともすようになった習慣だけが残る。玲ちゃんは村人、一課メンバーは森の民

・魔女は高い山のかげになっている暗い国を住まいとして、光が苦手

・白銀の森の民は、動物に変化できる能力がある(動物は固定)

・耀が白銀の森の王さまの時代になって、あれこれあって、耀が魔女からのろいを受けて、昼間動物固定にされてしまう

・のろいは、正体を知られずに新月~満月の夜をだれかと過ごしたら解ける。○年経ったらor誰かに正体を知られてしまったら完成、耀は魔女の娘と結婚することになる

・現在、城に残っている森の民は耀、司、蒼生、夏樹のみ

・耀さんたちが変化する動物は6周年のスタダ絵(耀=くま、司=オコジョ、蒼生=トナカイ、夏樹=きつね にしました。みんなかみさま系にしようかなと、蒼生さんをシカと迷っていたのですが、いろいろ検討した末、6周年の絵にいる子、トナカイっぽい顔だな~という完全な主観(これは司さんも)と、スパーチアにいそうだしという完全な趣味でトナカイにしました。)から、森の空の色なども6周年絵から。いや動物違うんじゃない?というご意見はありがたいです。

・司さんたちが着ている黒い服はスタダ前絵のイメージ


「太陽の東 月の西」からいろいろ借りて、6周年絵から妄想して、こんな感じの設定にしました。もっとうまく説明をおりこめたら、この盛大ないいわけページを作らなくてよかったのですが…。こんなところまでお付き合いくださりありがとうございます。

元ネタはもっと続くのにあそこで終わりにしたのは、いろいろ理由があって最初からその予定でした。ただ想定エピローグはあって、楽しくなって書いてみたので、蛇足ついでに載せちゃいます。ようやくまとも(?)な耀玲が始まるかもしれない…。

今回の本だいぶ遊んでいて、私はたいへん楽しく書きましたが、服部さんがほぼくまですみませんでした。こうやっていつも好き勝手すきなことをして遊んでいるので、ほんとうに好みに合ったときだけつまんでもらえればと思っています。無理なく~!

お付き合いくださってありがとうございます! 本をお手にとってくださりありがとうございました!


白銀の森のくま とあるエピローグ



「まさか追いかけてくるとはねえ」
呆れているようにも、怒っているようにも聞こえる。感情がわかりづらいと顔を見ても、びっくりするくらい整った顔にびっくりしてしまって、やっぱりわからない。
くまのときは言葉を話さずとも、ごきげんなのか眠いのかよくわかったのに、人の姿は見慣れないし困る。さっきまで――太陽の裏の国からの帰途――は、くまさんだったのにな、と、目の前の男の中で、くまの面影がある白い毛皮のマントばかり玲は見ていた。
くまさんーーもとい、耀は、白銀の森の城のこの中庭に着くと、ひとの姿になった。すると、そのとたん、朽ちた城が、あの夜のように銀色に輝いた。枯れていた花々も色を取り戻して咲き誇り、りんごの木も蘇り、枝をしなやかにのばして、金色の実をたくさんつけた。
瞬く間の出来事に驚いて目を見張っていたら、耀はなんの感動もなく話しかけてきた。耀にとってはなんでもないことなのだろう。
「足りなかった?」
「え?」
ふいに見つめていたマントがひるがえり、玲は視線を上げる。
耀は玲に背を向けて、りんごに手を伸ばしていた。
「3つじゃ、すぐ食べ終わっちゃった?」
そうして、りんごをもぐと、玲に差し出してくる。
つやつやとしておいしそうな金色のりんご。
玲は慌てて手をひっこめて首を横に振った。
「い、いえ、りんごが欲しかったわけではありません」
いまだりんごを求めて闇雲に森の中に踏み入ってきた村人という印象らしい。玲にしたら、いつも歩いているその先にちょっと入るという感覚だったが、思ったよりも無鉄砲な行為だったのか。耀にはずっとりんごを渡されている。もともと玲が食べたくて探しにきたわけではないという話も覚えていないのだろう。
「そう」
耀は、手の中のりんごを一瞥した。
「あ、でも!」
その持て余したような視線に、玲は学校のように挙手していた。りんごの木が枯れてしまったから追いかけたわけではないけれど、せっかくもいだりんごを受け取らない理由もない。それに、あの夜もらった3つのりんごはすべて、太陽の裏の国に行くのに助けてくれたおばあさんたちにあげたので、玲はまだ食べたことがなかった。絶品らしいりんごはぜひ食べてみたい。
「頂けるなら、ありがたく頂きます!」
玲が手を出すと、耀はなぜかまたりんごを見た。
不思議そうに頭を傾ける姿に、くまさんが重なる。見た目はまったく違うが、角度が同じだからだろうか。あのくまさんと耀が同じなんて、その姿が変わるところを見ても信じがたがったが、やはり同じ存在と受け入れざるをえない。えないのだが、どうしてももふもふの毛並を思い出してしまう。気持ちよさそうに寝ている姿も、おいしそうにクッキーを食べている姿も、このひととは重ならない。
「そんなに好き?」
「えっ、くまさんですか?」
「くまさん」
耀にぼんやりと目を向けながら、記憶の中のくまを思い浮かべていた玲は、問いかけられてとっさに聞き直し、耀に復唱されて間違いに気づいた。くまさんの話はまったくしていない。
「り、りんごですね! りんごですよ! りんごです! ふつうにりんごは好きですが、そのりんごはわかりかねます。実は、先日頂いた3個も、太陽の裏の国に行く途中で全てあげてしまってですね……あ、すみません、せっかく頂いたのに。そういうわけで、まだひとつも食べてないので、ぜひ食べてみたいと思っています!」
耀にじっと見られて、玲は早口でまくしたてる。
りんごの話だ。りんごの話でしかない。
「そう。じゃあ、はい」
耀はあっさりと頷いて、玲にりんごを差し出してきた。
話を流してくれたとほっとして、りんごを受け取る。
金色のりんごはずしりと重い。
「ありが――」
「くまが好きなの?」
「ぅぐう」
流してくれていなかった。超ど級にまっすぐに聞かれて、潰れたうめきが口からもれる。油断させてから仕留めにくるなんてひどい。
「森のくまの群れ紹介しようか?」
「結構です!」
「そう」
思わずりんごを握りしめる玲を、耀はおもしろいものを見る目で見てきた。
あの夜感じた意地悪かもしれないという印象はますます強まるばかりで、くまさんが恋しい。くまさんのときはもっとやさしかったし、毛並が最高だったから隣にいるだけで癒された。くまさんはよかった。耀に重ねて、くまさんを幻視してしまう。
「くまがいいならくまになってもいいけど?」
「い、いえ、結構です」
まるで玲がくまさんを見ていたのを見抜いたかのように言われて、玲は目を逸らして首を振った。
くまさんの方が嬉しいが、お願いはしたくない。それにいまさらくまさんになられても、中身がこのひとだと思うと、これまでのように毛並を堪能できるかわからない。いや、あの最高の毛並を前にしたら、そんなことはどうでもよくなるだろうか。いや、でも、中身はこのひとなのだ。実際はこのひとを撫でているということでは――それは考えてはいけない。玲は頭を振った。
ひとりで百面相している玲を眺めていた耀がくすりと笑う。
めずらしく笑ったと、玲が顔を上げると、耀と目が合った。
「おもしろい顔」
「ぐっ」
自分の顔がいいからといって、他人の顔面についてなんでも言っていいなんていうことはない。
「悪口はよくないと思います」
「悪口じゃないでしょうよ。かわいいって言ってる」
「言ってません」
森の民と感覚がずれていて、おもしろいがかわいいと同義の可能性もあるかと思ったが、楽しそうに笑っているから絶対違う。
「やっぱりくまさんになってください。くまさんはそんな失礼なこと言いませんでした」
「ただしゃべらなかっただけで、くまの姿でも同じこと言えるけど?」
「今のはなしで。絶対にやめてください」
「ほーん」
(ほーん……)
くまさんの姿で「ほーん」なんて言われたら終わりだ。くまさんはくまさんであってほしい。
「そんなに握りしめたら、りんご、潰れちゃうよ」
「さすがに潰せません」
「そう」
口に出せない気持ちが、りんごを持つ手にこもってしまった。
どんなからかいだと突っかかりそうになって、耀の声が意外そうだったので、玲をからかったわけではなく、耀が潰せるから単なる注意なのかもしれないと思い直した。受け入れたくないが中身はくまだし、涼しい顔で潰しそうだ。
「りんご、ひとつでいいの?」
「えっ、はい――あ、やっぱりよければ、もうひとつ頂いてもいいでしょうか」
一個で十分と頷いてから、玲はおばあさんを思い出した。結局、りんごを置きにいって以来村に帰っていないので、このりんごがおばあさんの思い出のりんごかわからないのだが、どちらにせよ喜んでくれるだろう。
おばあさんは元気になっただろうか。
「好きなだけどうぞ」
「もうひとつで大丈夫です。村のおばあさんに持っていかせてください」
「具合が悪いおばあさん?」
「は、はい。ありがとうございます」
覚えていたのかと驚いて、りんごをもいで渡してくる耀をまじまじと見てしまう。
それなのに、りんごをくれ続けていたのはどういうことだろう。おばあさんのことは別にして、無類のりんご好きに見えていたのか、たいへんな食いしん坊に見えていたのか。
耀の瞳はただきれいなばかりで、やっぱりその心はまったく読めない。
(アクアグレーの、瞳……)
おばあさんが言いかけて、秘密、と言った様子が脳裏に浮かんだ。
司たちの瞳の色はアクアグレーではない。おばあさんは、耀に会って、同じようにりんごをもらったのだろうか。
(会って、いたのかな)
なんだか気になった。好奇心ともちがって、なぜか知りたくもないような気持ちも混じって、胸の内がかすかにざわざわする。
(なんだろう……?)
「なあに?」
玲が疑問に思ったのと同時に、耀が首を傾げた。
瞳を見すぎてしまったようだ。
「あっ、いえ! すみません! おばあさんも喜ぶと思います! ありがとうございます!」
玲はあわてて首を振る。
「大切に届けますね」
それまで以上に大事にりんごを抱えた。大切に届けないといけない。
きっとおばあさんも喜ぶだろう。
傾いていた耀の頭はまっすぐに戻ったが、まだ観察するように玲を見ている。
挙動不審だったろうから説明を求められたら困る。自分のことながら玲にもうまく話せない。一瞬わいたざわざわはもう消えてしまった。
耀はなにも言わずに視線を外すと、またりんごをもいで、玲に差し出してくる。
「え……」
戸惑って、玲は手を出せなかった。
耀はそんな玲にりんごを押しつける。
その仕草は、ほんのすこしだけくまさんに見えた。
「食いっぱぐれないようにね」
「あ、ありがとうございます」
玲がまた全部誰かにあげそうだと思ったのかもしれない。そうだとしたら、このりんごは紛れもなく玲のためのものだ。
3つめのりんごは、なぜかすこしだけ輝いて見える気がした。
「お礼にクッキーくれてもいいよ」
「えっ」
胸がすこし膨らんだ矢先、思わぬことを言われて、勢いよく耀を見る。耀はすずしい顔をしている。
厚意ではなかったのか。先にものを渡して対価を得るなんて、詐欺ではないか。でも、りんごはもらってしまっているし、と、手の中のつやつやのりんごに視線を落とす。それに、クッキーをねだられると弱かった。クッキーを好んで食べてくれたくまさんを思い出す。くまさんとだぶるのは困る。困るけれど、断ることはできなかった。
「わかりました。クッキー作りますね」
「うん」





ありがとうございました!